BVI法人の配当(Distribution)手続
- 6月28日
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BVI(イギリス領ヴァージン諸島)法人から配当を出すとき、日本や香港のような 「配当可能利益」という概念はありません。「支払能力(solvency)」を基準に、取締役決議だけで実行できる ―― これが最大の特徴です。
本記事では、BVI Business Companies Act, 2004(改正を含む。以下「BCA」)に沿って、実務上おさえるべき点を整理します。また、配当の書面決議(Written Resolution)のサンプルをダウンロードできます。

1. 「配当可能利益」という概念がない
日本の会社法も香港の Companies Ordinance(Cap. 622)も、配当は原則として 分配可能な利益(distributable profits / reserves)の範囲内 でしか行えません。背後にあるのは「資本維持の原則(capital maintenance)」で、債権者への引当てである資本は配当として外に出してはいけない、という考え方です。
BCAにはこの「分配可能利益」の縛りがありません。BCAのもとでは、ソルベンシー・テスト(支払能力テスト)を満たす限り、原資がどの勘定であるかを問わず分配できます。過年度利益はもちろん、株式の払込資本そのもの(日本でいう資本金に相当する部分)からでも、減資のような手続きを経ずに分配できます。
BVIで問われるのは「利益剰余金があるか」ではなく、分配した直後に会社が支払能力を保っているかどうかです。日本や香港のように「累積赤字があるから配当できない」というものではありません。
日本(会社法) | 香港(Cap. 622) | BVI(BCA) | |
分配の基準 | 分配可能額 | distributable profits | ソルベンシー・テスト |
決定機関 | 取締役会 - 定款の定めによる(中間) 株主総会(期末) | 取締役会(期中) 株主総会(期末) | 取締役会 |
2. 配当の本質は「資産の移転」(BCA s.56)
BCA s.56 は distribution(分配)を、「配当」という名称ではなく 経済実態 で定義しています。判定基準は一つで、会社の資産が株主側へ出ていくか(または会社が株主のために債務を負うか) です。条文上は、会社自身の株式以外の資産を直接・間接に株主へ移転すること、または株主のために債務を負うことが広く distribution に当たり、配当(dividend)もそのなかに含まれる、という建て付けになっています。
この基準で当てはまる代表例は次のとおりです。
現金配当 ― 現金が社外に出る
現物配当(dividend in specie) ― 債権・有価証券などの資産が社外に出る
資本の払戻し(return of capital) ― これも資産が社外に出るため distribution。BVIでは配当と区別せず、同じ枠組みで処理されます(→ 第5節)
つまり distribution は「配当」より広い概念 で、資産が株主側へ流出する取引を幅広く取り込みます。
逆に、会社の資産が社外に出ない行為は distribution に該当せず、ソルベンシー・テストの対象外 です。例えば株式無償割当て(bonus issue)や株式分割(subdivision) は、いずれも会社が自社の株式を発行・分割して株主に交付するだけで、純資産は一切流出しません(株主の持分価値も前後で変わりません)。
3. ソルベンシー・テストの2要件(BCA s.56)
取締役が確認すべきソルベンシー・テストは、分配の直後の時点で次の2つを ともに 満たすことです。
会社の資産の価値が負債を上回ること(バランスシート・テスト)
会社が期日の到来する債務を支払えること(キャッシュフロー・テスト)
4. 手続きの実際 ― 取締役決議に solvency 充足を明記(BCA s.57)
BVIの配当手続きは、香港・日本に比べて非常にシンプルです。
取締役が会社の財政状態を確認 し、分配直後にソルベンシー・テストを満たすと合理的根拠(reasonable grounds)に基づき判断する。
取締役決議(resolution of directors)で配当を承認 する。この決議書には、「分配の直後において会社がソルベンシー・テストを満たすと取締役が判断している旨」を記載することが法定要件 です(s.57)。
決議に従って株主へ支払う。
実務上の最重要ポイントは 2番目の「決議書への solvency 文言の記載」 です。これは形式ではなく法定要件なので、決議書(Written Resolution / Board Minutes)からこの一文を落とさないようにします。
追加の注意(承認後・支払前):配当を承認したあと、実際に支払う前に、いずれかの取締役が「分配後もソルベンシーを満たす」と合理的に判断できなくなった場合、その配当は 承認されなかったもの とみなされます(s.57)。決議から支払までに期間が空くケースでは、支払直前の財政状態にも目を配る必要があります。
一人株主兼取締役の会社であっても、この取締役決議(書面決議で可)は必要です。「一人だから決議は不要」とはなりません。
現物配当を実行する際は、この取締役会決議とは別に、対象資産に応じた譲渡証書(Share Transfer FormやAssignment Agreement等)が必要となります。 |
5. 「資本の払戻し」も同じ枠組みで処理できる
BVIの大きな特徴は、香港・日本でいう「減資」という独立の手続きを経ずに資本に相当する部分も分配できる 点です。「資本の払戻し」も通常の distribution(s.56 / s.57)と同じ手続で処理されます。
ただし、留意事項もあります。
①:定款(M&A)が優先する。 BCAの規定は任意法規的な部分が多く、会社のM&A(Memorandum & Articles of Association)が「資本の払戻しには特定の手続きを要する」と定めていれば、そちらに従います。額面株式(par value shares)を発行している会社では、資本勘定の扱いについてM&Aに固有条項があることがあります。手続き着手前に、当該会社のM&Aを必ず確認する のが正しい順序です。
②:旧IBC法時代の会社には経過措置が残る。 BCA以前の旧 International Business Companies Act(1984)のもとで設立された古い会社には、経過措置(transitional provisions)が適用されることがあり、これらは概して 分配を「surplus(剰余)」の範囲で行うこと を求めます。多くの会社はこの経過措置をディスアプライ(適用除外)して、現代的な solvency テストに切り替えていますが、切り替え済みかどうかは会社ごとに確認が必要 です。古い会社では「solvency さえ満たせばよい」が成り立たないケースがあります。
6. solvency を満たさず配当した場合
ソルベンシー・テストを満たさない状態で行われた配当には、ペナルティの仕組みがあります。
株主からの取戻し(claw-back) 分配の直後に会社がソルベンシー・テストを満たしていなかった場合、会社はその配当を株主から取り戻すことができます。ただし、次の条件をすべて満たす株主に対しては取り戻せません。
配当を 善意で(in good faith)、かつ会社がソルベンシーを満たしていないことを 知らずに 受領したこと
その配当の有効性を前提に行動していること(受領後に何らかの対応を取っている)
全部または一部の返還を求めることが 不公平(unfair) であること
取締役の個人責任 配当を承認したあと支払前に、取締役が「分配後もソルベンシーを満たす」と合理的に判断できなくなったにもかかわらず、支払を止める合理的措置を取らなかった 場合、その取締役は、株主から回収できなかった金額を会社に 個人として返済する責任 を負います。
つまりBVIの配当は「決議すれば終わり」ではなく、取締役の支払能力判断にこそ責任が乗っている 制度設計です。決議書の solvency 文言は、この判断を記録に残す意味でも重要になります。
7. 実務チェックリスト
BVI法人で配当を実行する際の最小限の手順です。
M&A(定款)の確認 ― 配当・資本払戻しに関する固有条項、額面株式か無額面株式か、旧IBC法時代の経過措置をディスアプライ済みか
直近の財政状態の確認 ― 分配直後にバランスシート/キャッシュフローの両テストを満たすか
取締役決議の作成 ― solvency 充足の記載を必ず含める(書面決議で可)
支払の実行 ― 決議から支払まで期間が空く場合は、支払直前の支払能力も再確認
記録の保管 ― 決議書・支払記録を会社記録として保管
まとめ
BVIの配当は 「配当可能利益」ではなく「ソルベンシー・テスト」が基準。
手続きは 取締役決議 で完結し、決議書への solvency 充足の記載が法定要件(s.57)。
資本に相当する部分も 減資手続きなしに分配できる が、①定款が優先、②旧IBC法時代の経過措置に注意。
ソルベンシーを満たさない配当には 取戻し(claw-back)と取締役の個人責任(s.58)。
現物配当の場合は、本決議とは別に対象資産に応じた譲渡証書(株式なら譲渡証書と株主名簿の書換え、債権なら譲渡契約と債務者への通知など)の締結が別途必要。
【参考資料】配当の書面決議サンプル(Word)
本記事の内容を踏まえ、単独取締役・単独株主のBVI法人を想定した現金配当の書面決議(Written Resolution)のサンプルを用意しました。ソルベンシー・テストの充足記載(s.56・s.57)と、M&Aを確認した旨のリサイタルを織り込んだWord形式のひな型です。下記からダウンロード可能です。
ご利用の前に、次の2点を必ずご確認ください。① 会社のM&A(基本定款・通常定款)に、本配当を制限・禁止する定めがないか。② 旧IBC法(1984年)時代に設立された会社で、経過措置が残っていないか。
また、現物配当の場合、取締役・株主が複数の場合、M&Aが株主の関与を求めている場合等は、本サンプルとは様式が異なります。本サンプルは一般的な参考のためのものであり、法的助言ではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の配当実行にあたっては、会社のM&A、最新の法令等に即した個別の検討が必要です。



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