BVIの株式・資本制度
- 6月18日
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BVI(英領ヴァージン諸島)法人の株式・資本制度は、BVI Business Companies Act, 2004(改正を含む。以下「BCA」)に基づきます。日本の会社法とは異なる部分もあるため、その基本構造を見てみましょう。
前半でBVIの資本・株式制度の 考え方 を整理し、後半で個人・小規模設立で実際に使われる 標準フォームの中身 を見ていきます。

第1部 考え方 ― BVIの資本制度
1. 発行枠は「金額」ではなく「株式数」で定める
BVI法人を設立するとき、メモランダム(定款の一部)で定めるのは、会社が発行できる株式の最大数です。具体的な数で定めることも、「無制限(unlimited)」とすることもできます。
下記でもちょっと触れますが、株式数を無制限とすると会社設立時の手数料が高くなるので、株式の発行枠を無制限にすることは実務ではあまり見かけません。
BVIのルールで定めるのは authorised shares(授権株式数) ―― すなわち発行枠を株式数で定める仕組みです。発行枠を 金額で定める方式(authorised share capital)ではありません。
日本では、発行可能株式総数を定款に定めることが必須で(会社法37条)、無制限とすることはできません。日本も額面株式を廃止し、枠を金額ではなく株式数で定める点はBVIと同じですが、「枠が必須か(日本)/無制限も選べるか(BVI)」が異なります。
2. 額面株式・無額面株式のいずれも発行できる
BCA s.37 のもとで、株式は 額面付き(par value)でも無額面(no par value)でも発行できます。株式は全額払込み・一部払込み・未払込みのいずれの状態でも発行できます。実務上は額面株式US$1が多いです。
発行価額(株価)について、法律上の最低額の定めは 額面株式にしかありません。額面株式の対価は額面を下回ってはならず(s.47)、割引発行は禁止されています。逆に無額面株式には価額の下限そのものがなく、いくらで発行するかは取締役が決める対価の問題です。
3. 最低資本金は
最低資本金の規定はありません。資本金US$1から設定可能です(通貨はなんでも良く、実務上はUS$建てが一般的です)。
4. 「金額の枠」も「資本維持の原則」もない
前述のとおり発行枠は株式数で定めるため、発行枠を金額で示す authorised share capital という概念は登場しません。さらにBVIには、日本のように資本の流出を縛る 資本維持の原則(capital maintenance)の固有ルールもありません。減資のための独立した手続きも、「分配可能利益の範囲でしか配当できない」という制限もないのです。BVI法では、取締役会決議の中で「ソルベンシー・テストの基準を満たしている」という旨を取締役が宣言・確認するだけで、株式の買戻しや消却、株主への機動的な資本の払い戻しが可能となっています。
5. ソルベンシー・テスト(支払能力テスト)とは?
配当や資本の払戻しといった株主への分配(distribution)は、分配の直後に次の2要件を満たすかどうかで判断されます。
・ 資産の価値が負債を上回ること(バランスシート・テスト)
・ 期日の到来する債務を支払えること(キャッシュフロー・テスト)
この2要件を満たす限り、株式の対価として払い込まれた資金を含め、会社の資産は株主へ分配できます。日本が「固定額の枠」で債権者を守るのに対し、BVIは「分配のたびに支払能力を確認する」仕組みで守る ―― 発想が違うだけで、保護機能そのものは備わっています。
6. 発行は取締役の裁量。歯止めは取締役の義務とM&Aに置かれる
授権株式数の枠内であれば、株式の発行は取締役の裁量に委ねられ、対価や条件も取締役が決定できます。数の上限も(無額面なら)価額の下限もないとすると歯止めが弱いように見えますが、BVIでは歯止めを次の2つに置いています。
ひとつは 取締役の信認義務・正当目的(proper purpose)。発行権限は、会社の最善の利益のため正当な目的で行使する義務に服します。特定株主を不当に薄める発行はこの義務違反として争われ得ます。もうひとつは M&A(定款)による設計。発行の上限・手続き・先買権などは、各社がM&Aで自由に定められます。BVIは「法律はデフォルトを緩く作り、必要な規律は各社がM&Aで設計する」という思想で、歯止めの所在がM&Aと取締役義務に移っているのが特徴です。
第2部 実務 ― 標準フォーム
個人や小規模の会社がBVI法人を設立する場合、登録代理人(registered agent)が用意するM&A(定款)をそのまま使うのか、一部変更して使うことが多いです。その内容はおおむね次のようになっています。
発行枠は「50,000株」が定番
最も広く使われるのが額面US$1 ・授権株式数 50,000株・単一クラス(普通株式) という設定です。理由はコストで、BVIの設立・年次の政府費用は「授権株式数が50,000株以下かどうか」で段階が変わり、50,000株超になると手数料が高くなるためです。第1部で触れた「無制限」も選べますが、料金が上の枠になるため、小規模設立ではまず使われません。原理上は柔軟でも、実務はコスト最適化で50,000株に収斂します。
例えば、会社設立時には50,000株の枠内で1,000株発行・引受けて、実際の払込は100ドル(100株を額面US$1)したという具合です。この場合、残りのUS$900について株主の責任が残っています。
単一クラス・記名株式のみ
単一クラス(普通株式)の株式とし、記名株式(registered shares)のみを発行、無記名株式(bearer shares)は発行しないと定めるのが通常です(無記名株式は規制で実質廃止済み)。種類株式や優先株は、必要な場合にカスタムで追加する世界です。
先買権(pre-emptive rights)は「排除」が標準
ここは注意が必要です。定型的なM&Aには、BCA s.46 の先買権を 明文で排除している か記載がないのが典型です(「法第46条は当会社には適用しない」と一文で外す)。つまり標準のままだと、既存株主の先買権による希薄化防止は働きません。広範な取締役権限・先買権なし・事業目的の制限なし、というシンプルで柔軟な作りが標準です。
取締役の発行権限・株主の有限責任
標準フォームは取締役に広範な発行権限を与え、授権株式数の枠内なら取締役決議で発行できます。また「各社員の責任は、その保有株式について随時未払いとなっている金額に限られる」という有限責任の条項が標準で入ります。事業目的は限定しない(行い得る事業に制限なし)のが通常です。
実務上の注意点
上記の標準フォームをそのまま使う場合、次の3点に注意が必要です。
・ 授権株式数が50,000株の場合、増資でこれを超えるならM&A(定款)変更が必要
・ 先買権が外れているため、複数の出資者がいる場合は希薄化の自衛(先買権や発行上限の追記)を別途検討すべき
・ 一人株主=一人取締役なら、標準フォームのままで実務上の不都合はほぼない
まとめ
項目 | BVIの取扱い(原理 → 標準フォームでの実際) |
発行枠 | 株式数で定める(authorised shares)。金額の枠=authorised share capitalはない。無制限も可 → 実務は50,000株が定番 |
株式クラス | 自由に設計可 → 標準は単一クラス・記名株式のみ |
額面 | 額面・無額面のいずれも可。価額下限は額面株式のみ → 額面US$1が主流 |
先買権 | デフォルトでは付与されず、M&Aで設計 → 標準フォームは明文で排除 |
発行権限 | 取締役の裁量。歯止めは信認義務・正当目的とM&A → 標準は広範な取締役権限 |
資本維持の原則 資本の流出規制 | 減資手続等はなし。ソルベンシー・テスト後、配当、資本の払い戻し可能 |
株主の責任 | 未払株式代金+M&A上の責任+違法配当の返還に限定 |
BVIの株式・資本制度は、発行枠を株式数で柔軟に定め(無制限も可)、資本の流出はソルベンシー・テストで規律する点に特徴があります。そして実務では、その柔軟性のうえに「50,000株・単一クラス・先買権なし・広範な取締役権限」という標準フォームが事実上のデフォルトとして広く使われています。
本記事はBVI Business Companies Act, 2004(改正を含む)に基づく一般的な解説であり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の設立・手続きにあたっては登録代理人・専門家に確認をお勧めします。



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