香港法人の普通株式を「配当なし株式」に変更できる?|種類株式への変更手続き
「一部の株主には配当を出さない形に変更したい」という相談を受けることがあります。香港法人では、既存の普通株式の一部を「配当を受け取る権利のない株式」に変えることができます。この記事では、配当なし株式に絞って、仕組みと手続きの流れを整理します。

結論
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1. 香港の「種類株式」とは
香港の会社条例(Cap. 622)では、株式にどのような権利を付けるかは定款(Articles of Association)で決めます。
種類株式がある会社は、会社登記局に出す届出の「資本の状況(statement of capital)」に、種類ごとに発行済株式数・払込済額と未払込額・資本金額を書きます(s.201(2A))。あわせて、種類ごとの権利として次の4項目を書く必要があります(s.201(3))。これは種類株式の設計をこの4つに限るものではありませんが、配当なし株式を作るときは、少なくともこの4つをどうするか決めておくことになります。
項目 | 配当なし株式での例 |
議決権(一定の場合だけ生じる議決権も含む) | あり/なし(どちらでも設計できる) |
配当を受ける権利 | なし |
残余財産の分配(清算時) | 普通株式と同順位/劣後/なし |
償還(会社が買い戻す) | 償還株式にしない(通常) |
「配当なし」にしても、議決権や清算時の分配まで自動的になくなるわけではありません。それぞれを別に決めておきます。
2. 普通株式を「配当なし株式」に変える方法
新しく株式を発行するのではなく、すでに発行済みの普通株式のうち、特定の株主が持つ特定の株式を、新しい種類に指定し直します。
このとき、配当なしにする株式だけを新しい種類(B株)に変え、それ以外の株式は普通株式のまま残すのが簡単です。
なお、会社条例s.170(2)が定める「資本の変更」は、増資、利益の資本組入れ、無償株式の発行、株式数を増減させる転換(併合・分割)、未発行株式・没収株式の消却の6つで、株式の種類の変更は含まれていません。そのため、届出はs.170の様式(NSC11)ではなく、権利変更の様式(NSC15)で行います。
3. 手続きの流れ
# | やること | 内容 | 期限 |
1 | 定款の変更案を作る | 普通株式はそのまま残し、新しい種類(例:B株=配当なし)を設ける B株の4項目の権利を書き込む | — |
2 | 株主の決議・同意 | 定款変更の特別決議(s.88(2)) どの株主のどの株式をB株にするかも同じ決議で決める 影響を受ける株主の同意(s.180) | — |
3 | 会社登記局への届出(定款・決議) | NAA1(定款変更の通知、s.88(5)(a)) 変更後の定款(会社の役員が認証したもの、s.88(5)(b)) 特別決議の写し(s.622(1)(a)) 種類株主の同意書面の写し(s.622(1)(c)) | NAA1:定款変更の効力発生日から15日以内 決議・同意書面:決議または同意の日から15日以内 |
4 | 株主への通知(s.181) | 権利が変わった種類の株主全員に、変更を書面で通知 | 変更日から14日以内 |
5 | 会社登記局への届出(権利変更) | NSC15(株式に付いた権利の変更の通知、s.184) 変更後の資本の状況(statement of capital)を記載 決議・同意書面の写しは、s.622で提出済みなら添付不要(s.184(2)) | 権利の変更が有効になった日から1か月以内 |
6 | 社内記録の更新 | 株主名簿を更新(各株主の持株を記載、s.627(3)。どの株式がB株か分かるように書く) 旧株券を回収し、新株券を発行(s.179の記載に注意) | 株主名簿:2か月以内(s.627(4)) 株券:速やかに |
7 | 年次申告(NAR1) | 株式資本(第11項)を種類ごとに記載 株主の詳細(第14項)も種類ごとに記載 種類を変更したことを備考欄に記載(記入注記33(c)) | 次回申告時 |
4. 株主の同意の要件と、全員同意で行うメリット
定款を変更して新しい種類(B株)を作ること自体は、特別決議(s.88(2))でできます。その上で、すでにある普通株式の一部をB株に変える必要があります。普通株式には配当を受ける権利が付いており、それをB株に変えると、その株式から配当の権利がなくなります。これは今ある株式の権利の変更に当たるため、s.180の手続き(その種類の株主の同意)が必要です(s.87(3))。
この同意の方法は、定款に定めがあればそれに従い、なければ次のどちらかです(s.180(3))。
その種類の株主の総議決権の75%以上による書面同意
その種類の株主だけで開く株主総会(種類株主総会)での特別決議
この要件を満たしても、同意しなかった株主(その種類の総議決権の10%以上)は、変更から28日以内に裁判所へ変更の取消しを申し立てることができます(s.182)。
ただし、全員の書面同意(full consent、s.180(4A))をとることによって、次のことが可能となります。
同意した日(または同意書に書いた日)に変更が有効になる
反対した株主が裁判所に異議を申し立てる手続き(s.182)の対象にならない
全員の同意でない場合、変更が有効になるのは同意(または種類株主総会の決議)の日から28日が経過した後です(その間に異議の申立てがあれば、裁判所の判断が出た後になります)。裁判所は、変更が申立てをした株主を不当に害すると判断すれば、変更を認めません(s.182(5))。また、s.182とは別に、不公正な扱いを理由とする株主の申立て(s.724)の道も残ります(s.182(7))。
配当なし株式は、指定される株主にとって不利な変更です。そのため、反対する株主がいる状態で進めると争いになりやすく、実務では全員同意を前提にするのが現実的です。
書面決議であれば、株主総会を開く必要はありません。なお、特別決議だけでなく、種類株主の同意書面(全員が同意したもの)も、15日以内に会社登記局へ写しを提出する対象です(s.622(1)(c)、(2))。
また、決議・同意の写しは、それ以降に発行する定款の写しに綴じ込むか添付しておく必要があります(s.622(3))。
5. 定款に書く条文のイメージ
なお、モデル定款(Cap. 622H 附表2)第57条は、配当などについて特別な権利や制限を付けた株式を、普通決議で定めて「発行」できるとしています。これは新しく株式を発行する場合の規定で、すでに発行済みの普通株式の権利を変える場合は、この記事にある手続き(定款変更とs.180の同意)が必要です。
新しい種類の権利は、定款に具体的に書きます。英文定款の例は次のとおりです(あくまでイメージで、実際の条文は会社の状況に合わせて作ります)。
The share capital of the Company is divided into Ordinary Shares and B Shares. (a) Dividends: The B Shares shall not confer any right to receive dividends or other distributions of profits. (b) Voting: Each Ordinary Share and each B Share shall carry one vote. (c) Capital: On a winding up, the surplus assets shall be distributed among the holders of Ordinary Shares and B Shares pari passu. (d) The B Shares are not redeemable. |
6. 注意点
株券の記載(s.179)
種類株式がある会社の株券には、目立つ位置に「株式が複数の種類に分かれていること」と「各種類の議決権の内容」を書く必要があります。さらに、配当なし株式を議決権もない株式にする場合は、その種類の名称に「non voting」または「無表決權」を入れ、株券にも読める形で記載しなければなりません(優先株式と呼ぶ株式は除きます)。違反すると罰金の対象になります。
印紙税
香港株式について印紙税(Stamp Duty)の課税対象になるのは、売買の成交單據(contract note、Head 2(1))、売買以外で実質的な所有者が変わる譲渡(贈与など、Head 2(3))、その他の譲渡(Head 2(4))です(印紙税条例 Cap. 117 附表1 Head 2)。いずれも株式の売買か譲渡が前提です。株式の種類の指定替えは、株主が持つ株式の権利が変わるだけで、売買も譲渡もないため、印紙税の対象になりません。ただし、同じタイミングで株式譲渡も行う場合は、そちらに印紙税がかかります。
日本側の税務
一部の株式を配当なしにすると、その株式の価値が下がり、ほかの株主の株式の価値が上がります。株主が日本の居住者や日本法人の場合、この価値の変動について日本側で課税関係が生じないか、日本の税理士に確認してください。
もっと簡単な方法で足りる場合
目的が「特定の株主に、当面配当を出さない」だけであれば、種類株式にしなくても、その株主が配当を受け取る権利を放棄する方法(dividend waiver)もあります。モデル定款(Cap. 622H 附表2)第78条は、配当を受け取る人が、捺印証書(deed)を作成して会社に提出することで、配当を放棄できると定めています。提出先は会社で、会社登記局への届出はありません。株式を共有している場合は、共有者全員が署名した証書でなければ効力がありません。
定款変更や会社登記局への届出は要らず、放棄をやめれば次の配当から元に戻ります。恒久的な仕組みにしたいのか、その都度の対応でよいのかで選び方が変わります。モデル定款を採用していない会社は、自社の定款に同じ趣旨の条文があるか確認してください。
根拠法令・資料
会社条例(Companies Ordinance, Cap. 622)s.87・s.88(定款変更と届出)、s.170・s.171(資本の変更と届出)、s.179(種類株式の株券記載)、s.180・s.182(種類株式の権利変更と異議申立て)、s.181(株主への通知)、s.184(権利変更の届出)、s.201(資本の状況の記載事項)、s.622(特別決議・種類株主の同意の届出)、s.627(株主名簿)
印紙税条例(Stamp Duty Ordinance, Cap. 117)s.2、附表1 Head 2
会社(モデル定款)告示(Companies (Model Articles) Notice, Cap. 622H)附表2 第57条(種類株式の発行)・第78条(配当の放棄)
会社登記局 様式 NAR1「Annual Return」(s.662)・NAA1「Notice of Alteration of Company's Articles」・NSC15「Notice of Variation of Rights Attached to Shares」・NSC11「Notice of Alteration of Share Capital」の記入注記
会社登記局「Companies (Amendment) (No. 2) Ordinance 2018」説明資料(2019年2月1日施行の改正、full consent)



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