中国のレアアース輸出規制の流れ|日本への影響を整理
中国がこれまでにかけてきたレアアースの輸出規制を整理し、自動車産業や日本への影響を、公的機関や政府発表などの資料に基づいてまとめます。レアアースの用途やネオジム磁石の仕組みは、別記事「レアアースとは?用途・ネオジム磁石・供給の仕組みを整理」で解説しています。

規制を理解するための前提
中国の主な輸出規制の年表
時期 | 対象 | 内容 | 現在の状態 | 出典 |
2010年 | 日本 | 対日輸出を停止したとされる(「レアアース・ショック」)。中国政府の公式発表はない | 公式の措置ではないため、解除の発表もない | |
2012〜2014年 | 全世界 | 輸出枠(数量制限)と輸出税を米国などがWTOに提訴。2014年にWTOがルール違反と判断 | → 2015年1月に輸出枠を撤廃 | |
2015年1月 | 全世界 | 輸出枠を撤廃し、輸出許可制に切り替え | 輸出枠は解除。許可制は残る | |
2023年12月 | 全世界 | レアアースの抽出・分離技術、金属・合金の生産技術、ネオジム磁石などの製造技術の輸出を禁止(抽出・分離技術は2008年から禁止) | 継続中 | |
2025年4月 | 全世界 | サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素とその関連品目を許可制に。日米欧で自動車の生産が一時止まった | 継続中。許可が下りるようになり、輸出量は回復 | |
2025年10月 | 全世界 | 5元素を追加し、中国産のレアアースを含む海外製の部品にも許可を求める内容 | 一時停止(2025年11月から1年間) | |
2026年1月 | 日本 | 日本の軍事用途などへのデュアルユース品の輸出を禁止 | 継続中 | |
2026年2月 | 日本 | 20団体への輸出を禁止し、別の20団体を注視リストに追加 | 継続中 |
規制は解除されてから次がかかるのではなく、ほとんどが続いたまま上乗せされてきました。解除されたのは2015年の輸出枠(代わりに許可制)だけで、2025年10月の強化は一時停止中です。2026年の2つは日本を名指しした措置で、詳細は後述します。「継続中」は、解除の発表がないものです(2026年10月時点)。
2025年の規制でEVやスマホは作れなくなったのか
中国の輸出規制は、輸出を禁止するのではなく許可制にするものです。2025年4月に規制が始まると、4〜5月に輸出量が急減し、日米欧で自動車の生産が実際に止まりました(IEA)。
分野 | 主な影響(2025年) | 出典 |
自動車(日本) | スズキが5月26日からスイフトの生産を停止し、6月中旬の再開を見込むと説明 | |
自動車(米国) | フォードが5月にシカゴ工場のエクスプローラー生産を1週間停止。CEOは「高性能磁石が手に入らず、3週間工場を止めた」と発言 | |
自動車部品(欧州) | 欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、複数の生産ラインや工場が停止。4月以降の申請のうち許可されたのは約4分の1 | |
電子機器 | 鴻海(Foxconn)の会長は10月、当面の影響は最小限と説明 |
レアアース磁石はEVだけでなく、パワーステアリングやヘッドライトなどの部品にも使われます(Ford Authority)。そのため影響はEVに限りません。
許可はその後の数か月で下りるようになり、輸出量は回復しました(IEA)。ただしフォードは2025年7月時点でも、調達は「その日暮らし」の状態だと説明していました(Ford Authority)。
日本は2010年の「レアアース・ショック」の後、産業界と連携して需要側の対策を進め、レアアースの総需要を2010年比で30%減らしています(IEA)。ただし2026年に入り、日本向けの状況は大きく変わっています。
2026年の日本向け措置とその影響
2026年に入り、中国から日本へのジスプロシウムとテルビウムの輸出は止まっています。2025年の規制と違い、日本を名指しした措置です。
日本向けの措置
2026年1月6日:商務部が、日本の軍事ユーザー・軍事用途と、日本の軍事力向上につながるあらゆる用途へのデュアルユース品の輸出を禁止。対象品目は個別には示されなかった(公告2026年第1号、澎湃新聞)。日本政府は同日、「我が国のみをターゲットにした措置」として抗議し、撤回を求めた(外務省)。措置は、高市首相の台湾有事をめぐる国会答弁(2025年11月)以降、日中関係が悪化する中で発表された(CNN)
2026年2月24日:商務部が、三菱重工・川崎重工・IHIの関連会社やJAXAなど20社・団体へのデュアルユース品の輸出を禁止(公告2026年第11号)。SUBARUやTDKなど20社・団体を注視リストに加えた(第12号)(新華社、CISTEC)
中国の対日輸出はどうなったか
項目 | 状況 | 出典 |
中国のジスプロシウム・テルビウム対日輸出 | 2026年1月以降ゼロ | |
中国のイットリウム・スカンジウム対日輸出(混合・合金化していないもの) | 2026年1月以降ゼロ | 同上 |
中国のレアアース磁石対日輸出 | 2026年7月は111トン(前年同月比52.2%減)、8月は212トン(同17.1%減) |
代替調達の状況
中国以外からの重希土の調達は、まだ開発段階です。たとえばJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と豊田通商は、ジスプロシウムやテルビウムを多く含むナミビアのロフダル地域のレアアース探査・開発に取り組んでいます。2026年7月にJOGMECが最大4,766.8万カナダドルの出資を決めましたが、事業化の最終判断は2026年度中の予定です(豊田通商)。
まとめ
中国は2010年以降、輸出枠、技術の輸出禁止、元素ごとの許可制と、形を変えながら規制を重ねてきた。解除されたのは2015年の輸出枠だけ
輸出規制は許可制。2025年には日米欧で自動車の生産が一時止まった
2026年は日本を名指しした措置が2回出ている。日本向けのジスプロシウム・テルビウムの輸出は止まっており、中国以外からの調達はまだ開発段階
出典
IEA – Rare Earth Elements: Pathways to secure and diversified supply chains(報告書全文、2026年5月改訂版)
米通商代表部(USTR)– Measures Related to the Exportation of Rare Earths, Tungsten and Molybdenum(WTO DS431)
AM-online – Suzuki halts Swift production amid China rare earth export curbs(2025)
Fortune – China’s rare earth export controls and the global car industry(2025)
Ford Authority – Ford plants shut down for weeks over rare earth magnet shortage(2025)
Global SMT – Foxconn sees limited impact from rare earth restrictions(2025)



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