香港法人の定款変更|変更すべきタイミングと手続き(NAA1)
香港法人の定款(Articles of Association)は、設立時に会社秘書役の持っているテンプレートのまま作成されることが一般的です。多くの場合それで問題ありません。定款変更が必要になる場面と必要ない場面、手続きの流れを整理します。

定款とは
定款は、会社の組織と運営の基本ルールを定めた文書です。取締役や株主総会の決め方、株式の譲渡、配当の扱いなどが書かれており、設立時に作成して登記所に提出します。日本の会社の定款に当たるものです。
香港法人の定款はArticles of Associationといいます。以前は基本定款(Memorandum of Association)とArticles of Associationの2つに分かれていましたが、2014年3月施行の会社条例(Companies Ordinance, Cap.622)でMemorandumは廃止され、その内容はArticles of Associationに取り込まれました。
会社秘書役や銀行が今も定款をM&A(Memorandum and Articles of Association)と呼ぶことがありますが、これは昔の名残です。
会社設立サービスを提供する会社(会社秘書役)は、会社法のモデル定款(Companies (Model Articles) Notice, Cap.622H)の全部または一部を採用した自社の定款のテンプレートを持っているのが通常です。どこの会社秘書役のテンプレートも基本的な内容は共通しています。
定款変更が「不要」なケース
下記の変更は定款変更ではなく、それぞれ専用の届出で対応します。
変更内容 | 対応 |
登記住所の変更 | Form NR1 |
取締役・会社秘書役の交代 | Form ND2A / ND2B |
株主の変更(株式譲渡) | 株主名簿の更新・印紙税手続き |
増資(株式の追加発行) | Form NSC1 |
商号の変更 | Form NNC2 |
商号は定款の記載事項ですが、変更手続きはNNC2という別ルートになります。商号変更には特別決議が必要ですが、その決議の写しを登記所に提出する義務はなく、提出するのはNNC2のみです(s.622(1)(a))。
株主が変わっても定款の変更は不要です
香港法人の定款に記載されるのは設立時の出資者であり、現在の株主ではありません。したがって、株式を譲渡して株主が入れ替わっても定款を変更する必要はありません。
定款のPart A(必要記載事項)には、設立時の出資者(founder members)の氏名と引受株式数が記載されます(会社条例s.85(1))。設立申請書(Form NNC1)にも同じ内容が記載されています。
旧条例のもとでは、この情報は基本定款(Memorandum)の末尾に記載されていました。新旧いずれの場合も、これは設立時点の事実の記録であって、その後の株式譲渡に応じて書き換えるものではありません。定款上の名前と現在の株主が一致しないのは、制度上当然のことです。
株主を証明する書類香港では、次の書類が株主を示します。
銀行から「株主が変わったのに定款が変わっていない」と指摘された場合は、株主名簿の写し、直近のNAR1、印紙済みの譲渡書類を提出すれば足ります。譲渡が直近で、まだNAR1に反映されていない場合は、株主名簿と譲渡書類で示します。 |
定款変更を「検討すべき」タイミング
1. 旧条例時代の定款をそのまま使っている
2014年以前に設立された会社では、旧基本定款の条項が会社条例s.98により現在も定款の一部とみなされています。旧条例を前提とした条項が残っている場合、減資や組織再編の際には事前の確認をお勧めします。
2. 定款の内容が設立当時のまま古くなっている
定款の内容は設立時点で固定され、その後に制度が変わっても自動的には更新されません。たとえば、オンラインのみで株主総会を開催できるようにするvirtual meeting technologyの規定は近年追加されたもので、それ以前に設立された会社の定款には入っていません。
3. 外部の株主や合弁パートナーが入る
モデル定款は、株主が一人またはごく少数の会社を想定しています。外部の投資家や合弁パートナーが入る場合は、株式譲渡時の他の株主の先買権、重要事項についての同意権、取締役の指名権といった事項を定款に盛り込むか、株主間契約で手当てするかを検討します。
4. 取締役会の運営が定款と合っていない
取締役会の定足数、議長の決定票(casting vote)の有無など、実際の運営と定款の定めがずれていると、決議の有効性が問題になることがあります。
定款変更手続きの流れ
ステップ1:株主の特別決議
定款の変更は、原則として株主の特別決議(議決権の75%以上の賛成)で行います(会社条例s.88(2))。例外は発行可能株式数の上限の変更で、これは普通決議で足ります(s.88(3))。非公開会社では、株主総会を開かずに書面決議で行うのが一般的です。
ステップ2:会社登記所(Companies Registry)への届出
届出は、次の2つの義務に分かれます。期限の起算点が異なる点に注意が必要です。
NAA1(該当する様式)と変更後定款の認証謄本:変更の効力発生日から15日以内(s.88(5))
特別決議の写し:決議の可決日から15日以内(s.622(2))
目的条項(objects clause)とは、会社が営む事業の目的を定める条項で、日本の定款の「目的」に相当します。旧条例では基本定款に記載されていましたが、現在は原則として任意記載です。新条例のもとで設立された会社の定款には、通常、目的条項はありません。したがって、一般的な非公開会社の定款変更ではNAA1を使うことになります。
Form | 対象 |
NAA1 | 目的条項以外の定款条項の変更 |
NAA2 | 目的条項の変更 |
NAA3 | 2014年以前設立の会社で、旧基本定款由来の条項の変更 |
NAA4 | 非公開会社⇔公開会社の地位変更 |
目的条項の変更(NAA2)は、非公開会社の場合に提出期限の扱いが異なります。該当する場合はFormの記入要領を確認してください。
期限内に提出しないと罰金が科されることがあります(s.88(6)、s.622(7))。
まとめ
株主の変更で定款を変える必要はありません。定款に記載されるのは設立時の出資者だからです。
住所・取締役・商号の変更も、定款変更ではなく個別の届出で対応します。
定款変更を検討すべきなのは、旧条例時代の定款のままの場合、定款の内容が設立当時のまま古くなっている場合、外部株主が入る場合、取締役会の運営が定款と合わない場合です。
手続きは特別決議のあと、NAA1などの様式と変更後定款の認証謄本を効力発生日から15日以内に、特別決議の写しを可決日から15日以内に登記所へ提出します。



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