香港でジュエリービジネスを始める前に|必要なライセンス
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香港では会社設立が簡単です。書類が揃えば数日で登記が完了し、資本金の要件もありません。そのため「会社さえ作れば、あとは自由にビジネスができる」と考えている方が少なくありません。
ジュエリービジネスはかつては会社を設立して事業を登録すれば営業できました。しかし2023年4月に登録制度が新設され、ジュエリービジネスにはライセンスが必要となっています。

ジュエリービジネスに関連するライセンスは以下になります。
名称 | 所管 | 誰に必要か |
事業登録証(BR) | 税務局(IRD) | すべての事業者 |
DPMS登録 | 香港税関(C&ED) | 貴金属・宝石を扱う事業者 |
ラフダイヤモンド取引業者登録+KP証明書 | 工業貿易署(TID) | 未研磨ダイヤモンドを扱う事業者 |
瀕危物種ライセンス | 漁農自然護理署(AFCD) | 象牙・べっ甲・珊瑚等を扱う事業者 |
1. 事業登録証(Business Registration Certificate)
これはジュエリー業に限らず、香港で事業を行うすべての事業者に必要な基本の登録です。法人設立の際に併せて取得します。
後述するDPMS登録も、有効な事業登録証を持っていることが申請の前提になります。
2. DPMS登録(貴金属及び宝石商登録制度)
ジュエリービジネスにおいて最も重要な登録です。
根拠法:マネーロンダリング及びテロ資金供与対策条例(AMLO, Cap.615)Part 5C
所管:香港税関(Customs and Excise Department)
施行:2023年4月1日
FATF(金融活動作業部会)の相互審査で、香港では貴金属・宝石ディーラーが規制の対象外であることが指摘されており、これに対応するため2022年の条例改正で新設されました。宝飾業を通じた資金洗浄を防ぐことが目的です。
対象となる商品
貴金属:金、銀、白金(プラチナ)等
貴石:ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、翡翠、真珠
貴金属製品:上記を素材とする、含む、または取り付けたジュエリー・時計
天然に限られません。 条文は「whether natural or otherwise」と規定しており、養殖真珠や合成ルビー・合成サファイアも対象に含まれます。
シルバー925も対象です。 銀は貴金属に該当するため、比較的低価格帯のアクセサリーであっても対象商品を扱っていることになります。
一方、ステンレス、真鍮、アクリル、ガラス、キュービックジルコニアのみを扱う場合は、そもそも対象外です。この場合は取引金額にかかわらず登録は不要です。
なお金メッキ製品の扱いについては、条文上「having attached to it, any precious metal」とされており含有量の下限が明示されていません。判断が微妙な商品構成の場合は、事前に税関へ照会することをお勧めします。
時計販売も対象です
意外に思われるかもしれませんが、条文は precious product として「ジュエリーおよび時計」を並列で列挙しています。
一般的な商慣行では「宝飾業」と「時計販売」は別業種として扱われますが、AMLOは業界の分類ではなく資産としての性質で線を引いています。高額で換金性が高く持ち運びやすいという点で共通するためです。
高級時計の販売・買取を行う事業者が「うちは宝飾業ではない」と考えてしまうのは、この制度で最も起こりやすい誤解のひとつです。
登録が必要になる基準
判定基準は年間売上高ではなく、1取引あたりHK$120,000以上かどうかです。
すべての取引がHK$120,000未満であれば登録は不要ですが、この金額は日本円でおよそ230万円です。ジュエリーや時計であれば1件の商談で到達することは珍しくありません。また、この金額は受け取る側だけでなく支払う側にも適用されるため、仕入発注が大きい場合も対象になります。
Category A | Category B | |
対象 | 現金以外でHK$120,000以上の取引 | 現金でHK$120,000以上の取引 |
審査 | 形式審査のみ | Fit-and-properテスト、AML/CTF体制の立証 |
AML体制の構築義務 | なし | あり |
登録料 | HK$260 | HK$1,970 |
年会費・更新料 | HK$195 | HK$1,060 |
ここでいう「現金」は紙幣・硬貨を指します。銀行送金、クレジットカード、電子決済は含まれません。
したがって決済手段を非現金に限定すれば Category A で足ります。この場合、AML体制の構築義務は課されず、負担は大幅に軽くなります。
ただし、現金を扱わなければ登録不要になるわけではありません。カード決済であっても1件がHK$120,000以上であれば Category A の登録が必要です。現金を扱わないことで回避できるのは Category B だけです。
Category Aの登録者がHK$120,000以上の現金取引を行った場合、最高でHK$100,000の罰金および6か月の禁錮が科されます。
Category Aの登録手続き
香港税関自身が「simple and straightforward」と説明しているとおり、手続きは平易です。
必要なもの
有効な事業登録証(Business Registration Certificate)のコピー
会社設立証明書(Certificate of Incorporation)のコピー
取締役会が署名した授権書
授権代表者の身分証明書(香港IDまたは旅券)のコピー
事業所の住所証明 — 印紙貼付済み賃貸借契約書、所有権の記録、または3か月以内に発行された住所証明(公共料金・通信料の請求書、銀行・保険会社・香港政府機関が発行した書類)
申請料 HK$260
申請は税関のオンラインシステム(Dealers in Precious Metals and Stones Registration System)から Form 1A(BR) で行います。書類が揃った時点から、通常12営業日で処理されます。
なお「事業所」は店舗に限りません。条文上、事業の管理運営を行う場所、取引処理を行う場所、書類や記録を保管する場所も含まれます。実店舗がなく登記住所のみという場合でも申請できます。
登録が必要かどうか判断に迷う場合は、税関が公開している無料の自己診断ツール DPMS iPASS が便利です。5〜10分程度の設問で、登録の要否と適切な区分が判定できます。
登録後の義務
Category Aの義務は軽いものの、ゼロではありません。
登録証を主要営業地点の見やすい場所に掲示する
年会費HK$195を納付する
登録事項に変更が生じた場合、1か月以内に届け出る(違反は最高HK$50,000の罰金)
HK$120,000以上の現金取引を行わない
ウェブサイトやオンラインプラットフォームで販売する場合、登録番号またはQRコードをサイト上に掲示する(違反は最高HK$50,000の罰金)
新規事業所や臨時ブースを設ける場合、7営業日前までに事前通知を行い、支店証明書を取得してブースに掲示する
最後の点は、香港の宝飾展示会(Jewellery & Gem WORLD Hong Kongなど)への出展を予定している場合に実務上重要になります。出展のたびに手続きが必要ですので、スケジュールから逆算して準備してください。
DPMS登録が不要なケース次のいずれかに当てはまれば、DPMS登録は不要です。 (1) 対象商品を一切扱っていない ステンレス、真鍮、アルミ、アクリル、ガラス、キュービックジルコニアなど、貴金属も貴石も含まない商品だけを扱っている場合は、取引金額にかかわらず制度の対象外です。登録の必要はありません。 (2) すべての取引がHK$120,000未満 対象商品を扱っていても、販売・仕入ともにすべての取引がHK$120,000未満であれば、登録は不要です。区分Aも区分Bも要りません。以下は注意点です。
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3. ラフダイヤモンド取引業者登録とキンバリープロセス証明書
未研磨ダイヤモンド(rough diamond)を扱う場合は、DPMS登録とは別に手続きが必要です。
紛争地域からの「紛争ダイヤモンド」の流通を防ぐキンバリープロセス(KP)に基づく制度で、香港では2003年から実施されています。
未研磨ダイヤモンドの輸出入・売買・運搬を業として行う者は、工業貿易署(TID)への取引業者登録が必要
輸出入の都度、TIDが発行する**KP証明書(輸入用/輸出用)**を事前に取得する必要がある
根拠法は輸出入条例(Cap.60)およびその附属法令です。研磨済みダイヤモンドはこの制度の対象外です。
4. 瀕危物種ライセンス(CITES関連)
象牙、べっ甲(ウミガメの甲羅)、一部の珊瑚など、ワシントン条約(CITES)の対象となる素材を使ったジュエリーを扱う場合は、漁農自然護理署(AFCD)のライセンスが必要です。
根拠法は瀕危動植物種保護条例(Cap.586)で、輸入・輸出・再輸出・所持のいずれについても事前のライセンスが求められます。加工品も対象です。
罰則が非常に重い点に注意が必要です。違反した場合、最高でHK$10,000,000の罰金および10年の禁錮、加えて物品は没収されます。
アンティークジュエリーやヴィンテージ品を扱う場合、素材にべっ甲や象牙が使われていることに気づかないまま輸入してしまうリスクがあるため、仕入前の素材確認が重要です。
5. ライセンスではないが注意すべき点
香港には商品説明に関する規制があり、純度表示(18K、925など)や産地・処理の有無について誤解を招く表示を行うことは禁じられています。ライセンス制度ではありませんが、宝飾品の販売では実務上重要なルールです。
翡翠については、処理の有無(A貨・B貨・C貨)が価値を大きく左右します。鑑別書の取得と適切な表示は、規制への対応であると同時に、顧客の信頼を得るうえでも欠かせません。
6. よくある誤解
「年商が小さいから対象外」 → 判定単位は年商ではなく1取引です。
「請求書を分ければ回避できる」 → 関連する取引は合算されます。意図的な分割はかえってリスクを高めます。
「現金を扱わないから登録不要」 → 現金を扱わなければ Category B は不要ですが、カード決済でも1件HK$120,000以上なら Category A が必要です。
「安いアクセサリーだから関係ない」 → シルバー925やパールを扱っていれば対象商品です。また仕入側の金額で該当する場合があります。
「時計は宝飾業ではない」 → 条文上、時計はジュエリーと並列で対象に含まれます。
まとめ
香港でジュエリービジネスを行う場合、最低限以下を確認してください。
事業登録証を取得する(すべての事業者に必須)
DPMS登録の要否を確認する。取引が1件でもHK$120,000以上になる可能性があれば必要
未研磨ダイヤモンドを扱うならTIDの取引業者登録とKP証明書
象牙・べっ甲・珊瑚等を含む商品を扱うならAFCDのライセンス
香港は開業のハードルが低い地域ですが、業種によっては明確な規制があります。DPMS登録は制度そのものが比較的新しいため、「知らなかった」では済まないにもかかわらず認知が追いついていない領域です。
本記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の事案については、香港税関その他の所管当局の公表資料をご確認いただくか、専門家にご相談ください。



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