タイの海外所得課税|送金しなければ非課税?キャピタルゲインの扱いと2026年の最新状況
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更新日:18 時間前
タイに移住した日本人の方から、次のようなことを聞かれました。 「海外の証券口座で株を売って利益が出た。タイではキャピタルゲインが非課税と聞いたが、本当か?」
タイには確かにキャピタルゲインの非課税規定があります。ただしそれは限定列挙されており、海外の証券口座で外国株を売った利益は、そのリストに入っていません。
本記事では、タイ歳入法典(Revenue Code)と歳入局(The Revenue Department)の公表資料に基づいて整理します。

この記事の要点
タイ居住者の海外所得は、タイに送金した時点で課税対象になる
キャピタルゲインの非課税は限定列挙。海外資産の売却益は含まれない(非課税ではない)が、タイに送金しない限り課税要件を満たさない
「翌年までに送金すれば非課税」という新ルールは、2026年7月31日時点でまだ法令化されていない
「タイ居住者」とは?
タイ歳入法典41条は、暦年を通じて通算180日以上タイに滞在した者を、タイの居住者とみなすと定めています。
1. 海外所得は「持ち込んだ時」に課税される
条文の構造
タイ歳入法典41条2項は、次のように定めています。
タイの居住者が前課税年度において、国外での職務もしくは国外で営まれる事業から、または国外に所在する財産から、40条に規定する課税所得を得た場合、当該課税所得をタイに持ち込んだ時に、本編の規定に従って納税しなければならない。
課税のきっかけが「稼いだ時」ではなく「持ち込んだ時」に置かれているのが、この制度の核心です。
歳入局が示す2つの要件
タイ歳入局は2024年、外国人向けの公式資料を公表し、国外源泉所得が課税対象となる要件を次のように整理しています。
要件①:2024年1月1日以降の課税年度に稼得した所得であること。かつ、その所得を稼得した年に、180日以上タイに滞在していること
要件②:その所得がタイに送金されたこと。一部のみの送金でもよく、後の年度の送金でもよい
この2つが揃ってはじめて課税されます。逆に言えば、送金しなければ要件②を満たさないため、課税されません。
ここを間違えている解説が多い
180日の判定は「所得を稼得した年」について行います。送金した年ではありません。
たとえば2024年は滞在65日で、その年に海外の不動産賃料を得て、同じ年にタイへ送金した——歳入局はこのケースを非課税としています。稼得年に居住者でないためです。
逆に、稼得年に居住者だった所得については、送金する年にタイを離れても課税を免れられるとは限りません。歳入局が示す課税要件は「稼得年に180日以上滞在していたこと」と「タイに持ち込んだこと」の2つで、送金する年の滞在日数は要件に含まれていません。「送金年にタイを離れればよい」という前提での資金移動は避けるべきです。
課税されないケース
歳入局は、次の2つを明確に「タイ課税の対象外」としています。
ケース | 取扱い |
2024年1月1日より前に稼得した所得を、その後タイに送金 | タイ課税なし |
非居住年(滞在180日未満の年)に稼得した所得を、後日タイに送金 | タイ課税なし |
つまり2024年以前に築いた資産は、いつ持ち込んでも課税されません。ただし、どの資金がいつの所得かを証明できることが前提です。口座を分けずに混ぜてしまうと、この区分は主張できなくなります。
元本は課税対象ではありません
課税されるのは所得であって、送金額そのものではありません。
歳入局は次の例を示しています。海外の投資口座に200,000バーツを送っていた人が、その口座を解約して200,000バーツをタイへ持ち帰った——この場合、当該資金は課税所得に当たらず、納税義務は生じません。
同様に、海外預金の元本と利息をまとめて持ち帰った場合、課税対象となるのは利息部分だけです。
「タイに送金したら送った金額全部に税金がかかる」というのは誤解です。ただし、どこまでが元本でどこからが利益かを説明できる記録が必要になります。
💡 特例:LTRビザ(長期居住ビザ)保持者の免税措置 タイ政府が発行する「LTRビザ(Long-Term Resident Visa)」のうち、富裕層・富裕年金受給者・リモートワーカー向けの3カテゴリーを保有している場合、王室令等に基づく特例により、国外所得をタイ国内に送金・持ち込んだ場合でも個人所得税が完全免税となります。該当するビザをお持ちの場合は、送金課税のルール自体が適用除外となります。なお、高度人材(Highly-Skilled Professional)向けのLTRビザは国外所得の免税対象外で、タイ源泉の給与に17%の定率課税が適用される別の特典となっています。 |
2. キャピタルゲインの非課税は「限定列挙」です
原則:通常の所得として課税
タイ歳入法典40条は課税所得を8種類に分類していますが、その第4分類に、株式等の譲渡により生じた利益が明記されています。 つまり原則は課税です。そのうえで、一定の取引に限って非課税とされています。
非課税となるキャピタルゲイン
歳入法典42条および関連省令により、以下は課税対象外です。
タイ証券取引所(SET)に上場している株式を、SETで売却した場合の譲渡益
投資信託の売却による譲渡益
無利息の社債、手形、債務証書の売却による譲渡益(償還価格を下回る価格で最初に売り出されたものを除く)
ASEAN加盟国の証券取引所に上場し、ASEAN Linkを介して取引される有価証券の売却による譲渡益(国庫短期証券、公社債、手形および社債の形態をとるものを除く)
タイSEC認可の取引所・ブローカー・ディーラーを通じて売却した暗号資産・デジタルトークンの譲渡益(省令399号。2025年1月1日から2029年12月31日までの時限措置)
「タイの株は非課税」と言われるのは、上記の1を指しています。 ただし条件に注意してください。「SETで売却した場合」です。 上場しているだけでは足りず、取引の場所が要件になっています。
海外の証券口座で得た利益は、このリストに入りません
米国系ネット証券などを通じた外国株の売買益は、上記のどれにも該当しません。したがって通常の所得として課税対象です。 整理すると
取引内容 | 課税されるか |
SET上場株をSETで売却 | 非課税 |
海外口座で外国株を売却、タイに送金しない | 課税されない(送金要件を満たさないため) |
海外口座で外国株を売却、タイに送金 | 課税される |
上記の送金しないケースは「非課税」というより「まだ課税要件を満たしていない」だけという理解が正確です。
なお5は、タイのSECライセンスを持つ業者を経由した取引に限られます。海外の取引所での売却益は対象外で、通常の所得として扱われるため、タイに送金すれば課税されます。
分離課税は選べません
歳入法典48条(3)により、一定のキャピタルゲインについては15%の分離課税を選択できます。しかしその対象は社債、手形、その他の債務証書の売却益に限られ、株式の譲渡益は含まれていません。
したがって株式のキャピタルゲインは、給与その他の所得と合算され、総合課税として累進税率が適用されます。
現行の個人所得税率
課税所得(バーツ) | 税率 |
〜150,000 | 非課税 |
150,001〜300,000 | 5% |
300,001〜500,000 | 10% |
500,001〜750,000 | 15% |
750,001〜1,000,000 | 20% |
1,000,001〜2,000,000 | 25% |
2,000,001〜5,000,000 | 30% |
5,000,001〜 | 35% |
損失は利益と相殺できません
見落とされがちですが、実務上もっとも影響が大きいのはここかもしれません。
タイでは、キャピタルロスをキャピタルゲインと相殺することができません。
日本では上場株式等の譲渡損益は通算でき、損失は3年間繰り越せます。タイにはこの仕組みがありません。年間トータルで損失でも、利益が出た取引について課税される可能性があるということです。
3. 「翌年までに送金すれば非課税」はまだ決まっていません
これまでの経緯
〜2023年:1987年5月1日付の歳入局通達に基づき、「稼得した年と異なる年にタイへ持ち込めば非課税」という運用が長年続いていました。年をまたげば課税されないというルールです。
2024年1月1日〜:歳入局通達(2023年9月および11月に発出)により、この運用が変更されました。稼得年を問わず、送金した時点で課税されることになりました。ただし2024年1月1日より前に稼得した所得は従来どおり扱われます。 (※ここで押さえておきたいのは、41条の条文自体は変わっていないという点です。変わったのは歳入局の解釈であり、法改正ではありません。)
2025年〜:実務界からの反発を受け、歳入局は「稼得した年またはその翌年にタイへ送金した場合は非課税とする」という緩和案を検討していると報じられました。
上記をわかりやすく説明すると、 2023年まで(旧ルール) 稼いだ【同年】に送金すると課税、【翌年以降】に送金すれば非課税 問題点:みんな税金を逃れるために「あえて1年待ってから送金する」という裏ワザが横行した。 2024年〜(現行ルール) いつ送金しても全部課税 問題点:税金がかかるなら、投資家や富裕層がタイ国内に資金を一切送金しなくなってしまった。 検討中の「緩和案」 稼いだ【同年または翌年(2年以内)】に送金すれば非課税、それ以降(2年超)は課税 狙い:「2年以内なら税金ゼロにするから、海外に置いたままにせず早くタイ国内にお金を戻して投資や生活費に使ってね!」 |
「緩和案」はまだ法令ではありません
この緩和案について、2026年7月31日時点で、王室令(Royal Decree)または省令(Ministerial Regulation)としての公布はされていません。
タイでこの種の免税措置を導入するには、閣議承認、法制委員会(Council of State)の審査を経て、官報(ราชกิจจานุเบกษา)に公布される必要があります。この最終段階に至っていない以上、現時点で適用される法令は2024年1月から施行中のルールです。
インターネット上には、この緩和案を既定の事実として書いている解説記事が少なくありません。しかし施行前の案に基づいて資金を動かすと、後で修正申告や加算税の対象になり得ます。
タイでは過少申告に不足税額の100%、無申告に200%の加算税が課され、さらに月1.5%の延滞税がかかります。送金の前に、必ずその時点の最新状況をご確認ください。
実務上の留意点
資金の色分けを先にやっておく
2024年以前の資産、2024年以降の所得、元本と利益。これらが同じ口座で混ざってしまうと、非課税部分を主張する立証が難しくなります。送金を始める前に口座を分けておくのが現実的な対応です。
「送金」の範囲を広めに考える(海外カードやATM利用)
銀行口座間の海外送金だけが「持ち込み」ではありません。海外口座に紐づくデビットカードやクレジットカードでタイ国内の買い物を決済したり、タイのATMで現地通貨を引き出したりする行為も、歳入局から「タイへの資金持ち込み(実質的な送金)」とみなされるリスクがあります。生活費を海外カードで賄っている方は注意が必要です。
まとめ
論点 | 正しい理解 |
海外所得 | タイに送金した時点で課税対象(送金しない限りは課税要件を満たさない) |
キャピタルゲイン | 非課税は限定列挙。SET上場株をSETで売却した場合等に限られる |
海外口座の売買益 | 非課税リストに入らない。送金すれば総合課税・累進 |
損益通算 | できない。繰越控除もなし |
180日判定 | 送金した年ではなく、所得を稼得した年で判定 |
送金額と課税額 | 課税されるのは所得部分のみ。元本は課税対象外 |
2024年以前の所得 | いつ送金しても非課税(立証できることが前提) |
翌年までに送金なら非課税 | 2026年7月31日時点で未施行。法令化されていない |
本記事は2026年7月31日時点の情報に基づいています。記載内容はタイ歳入法典および歳入局公表資料を参照していますが、個別の事案については専門家にご確認ください。
【参照】
タイ歳入法典 第40条、第41条、第42条、第48条、第56条/タイ歳入局「HOW DO FOREIGNERS LIVING IN THAILAND PAY TAX?」(2024年)/タイ歳入局法務課「歳入法典41条2項に基づく個人所得税の納付に関するQ&A」/歳入局通達 Por.161/2566、Por.162/2566
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